妻さんの手は震えていました。
不安げな表情。
やだなぁ手術やだなぁ、なんでこんなこと(帝王切開)になっちゃったんだろう、と何度もつぶやく妻さん。
こんなとき励ます言葉なんて考えてもいくつかしか言えないんですね。自分が恥ずかしいです。
いよいよ手術の時間になり、麻酔を打ちに手術室に入る妻さん。
外でいったん待たされた私はうまくいくよう強く手を握りしめ願いました。
しばらくして呼び出されるとすでに手術は始まっていました。
意識がある妻さんの少し冷たくなった手を握ります。
痛みはないようで今どこまで進んでるかをよく聞かれました。
始まってまだ10分ほど、お医者さんの背中でよく見えなくなったと思った瞬間。
その子はとても大きな鳴き声で泣いてくれました。
3月26日14時26分
新たな命が生まれました。
その声を聞いた瞬間、僕らは同時に涙を流しました。
なんとも言えない感情が光の早さで交錯し、溢れました。
写真を看護師さんに撮ってもらい赤ちゃんは別室へ。
縫合中に妻さんへはありがとうよく頑張ったねの言葉しか言えませんでした。声がつまって出なかったです。
先に手術室を出るとお義父さんとお義母さんが既に写真を撮っていました。
体重2860g。保育器に書かれたプレートより実際に見たサイズでこんなに大きな子がお腹の中にいたなんて、という印象でした。
ガラス越しに延々と写真を撮っていると妻さんが運ばれてきて赤ちゃんとご対面。
見た目でとりあえず障害がないことにひと安心。
病室で再度妻さんを労い、これからがんばろうねと誓ったのでした。
その日はSNSで発表後たくさんの先輩、友人からお祝いをいただきました。
そしてだんだんと実感する、今日から親というスタートラインに立ったこと。
この子を立派に育てる。
そして三人で僕らにしか作れない幸せの地図を旅していこうと決めたのでした。